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eat LOVE Day 14 / 言葉にできない

写真の日は今日よりもうひと月以上前になる。

このテキストを書くことをすっかり忘れて1ヶ月が経っていた。


よしみさんから、あの日の文章を書いて、と連絡があり、ハっと気づく。

もう何にも書けることがないかもしれないという心もとない気持ち。


おそるおそる写真を見返してみる。


あ。ビーツのトーストだ。

ビーツはどこで買ったんだっけ、ああ、あの日だ。

イオンモールに映画を観にいって、なんともいえないふしぎな気分になって、

イオンの道の駅みたいなスーパーに

おしゃれなビーツがふつうの「野菜」って感じに売られていて、

重大なことを発見したみたいにカレに言った。

ちょっとこっちに来て。ほら、ビーツ。安くない? こんなに安いのすごくない??


ぼくは小学生みたいになってしまう。

カレはお母さんになる。


そうだね、安いね。よかったね。

そうして彼のもつ買い物かごに得意げに入れて、

翌日はたしかパスタの具となったそれは、

この日にパンにのせられチーズをかけられ、ぼくたちの口の中に消えた。

いつものトーストはときどき、

スペシャルゲストみたいな何かののったチーズトーストになる。


ぼくはチーズトーストの日は必ず写真を撮っている。

見返してもふーんって感じだし、見返すこともほとんどないけれど、撮っている。


蕾だった梅は咲いて散った。

ビーツも赤いスープもどこへ行ったのだろう。

このひと月に猫が一匹死んだ。


よしみさんが撮っていたかみちゃんの写真を見て、不安な日々を思い出した。

かみちゃんが死んだ日は、泣きながらごはんを食べて、泣きながら喋って、

音楽もテレビもパソコンもしないで、

彼と向かい合って、べつべつの手仕事をして過ごした。


かみちゃんのこの写真を見ていると、ミッチーのことも思い出す。

何度も病院へ連れていき、

オシッコで臭くなった身体を洗って乾かし、おしりをふいたりおむつをさせたり、

首の負担が少ないように手製の軽いエリザベスカラーを作る彼のやさしさを。


好きとか素敵とかそういう感情をはるかに通り越し、

彼の太い優しさを心から尊敬しながら、彼らの様子を見ていた。


ありがとう。

動くことのないかみちゃんを抱っこして、何度もそう言った。

口がそうとしか動かなかった。


人生でいちばん哀しい夜だった。

思い出している今も涙がでそう。

でも、出会えて本当によかった。


2019年4月12日。かみちゃんはあたらしい世界へと歩みをすすめました。

ありがとう。わたしはあなたを今日も愛しています。









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