夜。夜の写真はすこしさびしい。
なんだろうな、なんでさびしく見えるんだろう。
夏の終わりの気配を思い出した。
子どもの頃の日曜日の夕方とか。
終わってしまう、闇に飲み込まれていく、
見たことのない、しらない世界へ連れていかれる、
その未知なるものへの恐れもすこし感じる。
でも、終わることで始まる。
カミちゃんは死んでしまい、もうわが家にその肉体はないけれど、
カミちゃんを看取ったことで知れたことはたくさんあった。
あたらしい自分になった。
この夜の写真には、たぶん初めておしりくんが写っている。
わが猫姉弟イチのシャイボーイのおしりくんは、
ふつう誰かがくると、ぼくたちでも容易に見つけられないどこかへ隠れて出てこない。
大好きなごはんをエサにおびきだそうともあらわれない。
シャイなんて涼しい言葉は適当と思えないほどに、人見知りの彼は、
ぼくたちに似ている。
いつだったかのある日、カレに、
猫たちの中でいちばん自分に似ているのはどの子? と尋ねたら、
珍しく、間髪入れずに返答があった。「おしりくん」。
ぼくも間髪入れずにこう言った。「ぼくもおしりくん」。
緊急事態のように人に見つからない彼方へ逃げたいおしりくんのようなぼくたちは、
たぶんいっしょにいることで、外の世界へふみだすことができる。
たとえ何があっても、家に帰れば安心がある。
平気でおならもゲップもできてしまう空間で、
あった出来事を話すことも、話さないことも許されている。
ぼくはたぶん、ずっとそういう場所を求めていた。
ぼくがぼくでいていい場所を。
ぼくの居場所を。
ぼくはこのホームから、少しずつ少しずつ
外の世界でも自分のままいることを、
実は誰もそれを拒んでいなかったことを知り始めている。
いつかおしりくんが、よしみさんに撫でられる日が来るだろうか。いや、きっと来る。
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